人不足の悪循環から抜け出す方法 最終回

2022年12月20日火曜日

経営の仕組み 組織経営

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前回のコラムでは人不足の悪循環から抜け出す方法について定着戦略の面から説明しました(記事はこちら)。本日は採用戦略の面から人不足の悪循環から脱出する方法について説明します。


人不足の悪循環についての説明はこちらをご覧ください


それでは採用戦略に関しての具体策について考えていきます。


人不足の悪循環から抜け出すための採用戦略

採用戦略を描くためには、まず採用活動をプロセスに分解してみる必要があります。その上で各プロセスに戦略的な打ち手を施していくという流れになります。

採用のプロセス分解

一言で採用活動と言っても実は細かいプロセスに分かれています。まずは採用活動のプロセス分解をしてみましょう。

ざっと分解すると以下の通りになります。

  1. 母集団形成
  2. 応募・選考
  3. 内定
  4. 入職定着

それぞれについて説明していきます。


母集団形成

自組織に関心がある、あるいは入職の意思がある求職者を集めることを指します。母集団が多ければ採用する人材を選ぶことが出来ます。

1人しか応募がなければ、その求職者を採用するかしないかの2択しかありません。しかし、10名の応募があれば、10名の中から選ぶことが出来ます。

母集団が大きければ大きいだけ選択肢が増えるので、出来るだけ大きい母集団を形成することが重要です。


応募・選考

履歴書の送付を受け、書類選考を行ったり、採用面接を行ったりする一連のプロセスを指します。採用活動の中心ではありますが、先ほど挙げました通り、その前後にも採用活動の重要なプロセスはあります。


内定・入職

選考の結果、合否を決め、内定を出して、実際に求職者が自組織に入職するまでのプロセスです。


定着

採用活動は入職で終わりではありません。大切なのはその後の定着のプロセスです。ここを疎かにするとせっかく獲得した人材が短期間で辞めることになってしまいます。


採用戦略の具体的なポイント

先ほど挙げました採用のプロセス毎に打ち手を施していきます。採用戦略といってもそのプロセス毎に打ち手は全く異なります。プロセス分解をしないとロジカルに打ち手を積み上げていくことができません。プロセス分解の重要性はその点にあります。


母集団形成に関する打ち手

まず、自組織が利用している求人媒体を挙げて明確にします。具体的には、ハローワーク、ホームページ、養成学校への求人、職員による紹介、人材紹介会社などが挙がるでしょう。その上で、もしデータがあれば、これまでにそれぞれの求人媒体から何名の応募があり、何名が入職に至っているのかを集計します。理想は過去3年分です。こうすることで、どの求人媒体の効果が高いのかとどの求人媒体に課題があるのかが見える化されますそれらを踏まえて、今年度はどの求人媒体を通して何名の応募や採用を獲得したいのかの目標を決めます。

「人(応募者)が来ない。」と嘆く採用担当者の声をよく聞きます。しかし、そもそも何名の目標に対してどれくらい不足しているのか、どの採用プロセスに課題があるのかという分析は殆どされていません。目標とのギャップが見えていなければ戦略も打ちようがありません。

求人媒体が明確になったら、それぞれで活用するツールの整備戦略を立てていきます。ハローワークであれば求人票です。

求人票の記載内容に不適切な点が無いかチェックします。特に自由記載が出来る欄については、求職者に自組織の魅力がきちんと伝わる内容になっているかを確認します。ホームページも同様です。ホームページはいわば組織の自己紹介です。きちんと求職者に自組織のことを分かってもらえる内容になっているかを確認します。他にも求職者向けのパンフレットなども重要なツールとして挙げられます。

これらに掲載する情報として大切なのは、理念や組織、ビジョンといった方針に関わるもの、教育体制や組織風土に関わるもの、実際に働いている環境や人の顔が見えるものの大きく分けて3つです。これらは職員定着のために行うべきものと完全に一致しています。今回のシリーズコラムの冒頭で“定着の施策はそのままリクルート活動の強みになる”といったのはそういう意味です。

母集団形成の取り組みとして見学会を実施してもらいたいです。応募まで熱量があがっていない求職者にとって見学会は呼び水になります。「とりあえず行ってみようか。」という接点を作るきっかけになるからです。オンラインでの見学会もおススメです。転居予定の遠方の求職者にいち早くアプローチすることが出来ます。最近ではリモート会議のオンラインツールが充実しているのでほとんどコストをかけずに行うことが出来ます。

見学会は求職者の目利きの場としてもメリットがあります。緊張して取り繕う採用面接よりも見学会は求職者の素が出やすくなります。時間も長いので気も緩みやすいです。そのため、求職者の適正が見極めやすくなります。


応募に対する具体的打ち手

応募プロセスは、自組織に興味や関心を持った応募者が求人票なり応募の意思を表明するなりの一歩を踏み出す段階です。求人組織側とのやり取りがスタートすることになりますので、応募のプロセスに進むにはそれなりの心理的ハードルがあります。その心理的ハードルを出来る限り下げるのが応募に対する打ち手の目的です。

まず求職者が応募しやすいプロセスを整備します。求人媒体に「応募方法の詳細はお問い合わせください。」としか書いていないのはNGです。求職者が次のプロセスに進みやすいように、最低でも担当者名と「お問い合わせの際は〇〇とお伝えください。」と具体的に明記しましょう。

求人情報を最新な状態にしておき、最終更新日を記載しましょう。そうすることで「これはいつの求人?今も募集しているの?」という求職者の迷いを防ぐことが出来ます。

応募に必要な書類も明記します。そして選考のプロセスも明記します。これで求職者が問い合わせをする手間が省けますし、どんな選考が行われるのかをあらかじめ知ることもできます。

自組織オリジナルの求人票も効果的です。ホームページからダウンロードできるようにすると求職者が求人票を用意するという手間を省くことが出来ます。先ほどご紹介した見学会の際に資料をして渡すこともできます。

ホームページがある場合は、リクルート専用の問い合わせフォームやwebエントリーの仕組みを取り入れるのもおススメです。

求職者は応募しようと思う前に必ず一度はためらいます。「私の経験で大丈夫だろうか?」、「入職してちゃんとやっていけるだろうか?」、「この法人は本当に大丈夫だろうか?」と様々な不安がよぎります。その芽を出来るだけ摘み取るようにしましょう。

そのための具体的な方法としては職員インタビュー記事の作成をお勧めします。なぜなら、今いる職員はすでに躊躇のプロセスを通っているからです。想像でこちらが考えるよりも、実際にその経験談を語ってもらう方が望ましいです。

インタビューの内容は次の通りです。「どうしてここで働こうと思いましたか?」と質問します。これは求職者から見た自法人の魅力です。次に「働こうと思う前に不安に感じたことは?」と質問します。これは求職者が応募をためらう理由です。最後に「その不安は入職してどの様に解消されましたか?」と質問します。これは応募をためらう理由を打ち消す具体的な根拠になります。

この流れでインタビュー記事を作成することで、求職者がインタビューされている職員に自分を重ねやすく、応募から入職後までを疑似体験することが出来ます。


選考に対する具体的な打ち手

応募者がたくさん来ても、自組織にマッチし辞めない人材を選べなければ意味がありません。そのためにも採用面接の精度を上げることは必須です。

面接官は複数名にしましょう。1人だとどうしても主観になってしまいます。複数の目で評価することで客観的に求職者を目利きすることが出来ます。

基本の質問を決めましょう。面接官が変わっても選考の本質が変わらないように必ず質問する項目を決めておきます。そしてその質問の意図と評価基準、評価点を明確にしておきます。例えば、「前職の退職理由を教えてください。」という質問であれば、評価基準は「過度に他者批判、他責的になっていないか。その経験を成長につなげる意思があるか。」になり、2点、1点、0点の3つで評価するとなります。

このような枠組みを決めることを採用面接の構造化と言います。構造化することで判断基準のバラツキを無くすことが出来ます。そして、構造化された面接を繰り返すことで面接官の目利きの力量もあがり、結果、辞めにくい人材を見抜くことが出来るようになります。


内定・入職に関する具体的な打ち手

内定通知を確実に出すようにしましょう。「そんなの当たり前だろう。」と思うかもしれません。しかし、面接官や合否の決定者と、求職者に選考結果を伝えたり内定通知を送ったりする担当者が異なる場合、伝達ミスが起こる可能性があります。「内定者から受諾の返答がこないなぁ。他に行っちゃったのかなぁ。」と思っていたら、人事担当者に訊いたら内定通知を送っていなかった。採用になったことを人事担当者が把握していなかったということが実際に起きたりします。そこまでは至らなくても、人事担当者が内定の連絡や内定通知の郵送を後回しにしていたということは起きがちです。組織内部のコミュニケーションを確実に取るようにしましょう。

内定者の内定辞退を防ぐために内定受諾書を取るようにしましょう。内定受諾書とは求職者に自組織の内定を受諾し、入職の意思表示をしてもらうものです。法的な効果は全くありませんが内定辞退に対しての心理的なストッパーにはなります。


定着に関する具体的な打ち手

人不足の悪循環から抜け出す方法の最後の打ち手は定着に関するものです。こちらは前回のコラムにまとめましたのでそちらをご覧ください。


人不足の悪循環から抜け出す方法 その②


繰り返しになりますが、定着に関する打ち手はそのまま母集団形成のための自組織の魅力としてアピールできます。採用に関する打ち手と定着に関する打ち手は人材不足の悪循環から抜け出すための両輪であると考えてください。



人不足の悪循環から抜け出すための方法を採用と定着に関して3回にわたって具体的にまとめてみました。大切なのはそれをコツコツと継続することです。頑張って3年継続させれば目に見える成果が得られるはずです。


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病院・介護施設・福祉サービス事業所など組織力を高め、「人が集まる組織」、「人が辞めない組織」を作る専門家。 「定着率を2倍にする3つの視点」をベースに、採用・定着に関する仕組みづくりを総合的な組織改善を通してプロデュースしている。  高額でありながら離職しやすいとされる人材紹介サービス会社との付き合い方や対策アドバイスを専門的に行えるのは業界唯一である。

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