これまで経営の根幹となる3つのマネジメントの重要性について度々取り上げてきました。今回のシリーズコラムでは、もう少し掘り下げて、マネジメント力の高い組織とはどのような状態にある組織なのかを具体的に描いていきます。
経営の根幹となる3つのマネジメントとは
経営の根幹となる3つのマネジメントとは「方針マネジメント」、「品質マネジメント」、「モチベーションマネジメント」の3つです。
①方針マネジメント
ビジョンや理念、中長期経営計画といった組織の方向性、方針に関わる事項についてのマネジメントです。職員がどこを目指して進んでいけば良いのかといった羅針盤の様な役割を担います。
方針マネジメントについての詳しい情報はこちらもご覧ください。
「すぐに実践したくなる、結果が出る経営の仕組みづくり その①」
②品質マネジメント
実際に患者さんや利用者さんに提供する医療サービスや介護サービスの品質についてのマネジメントです。職員が日々提供するサービスについて、どの手順でどのように実行していけば最低限の品質を担保できるか標準化させる役割を担います。
品質マネジメントについての詳しい情報はこちらもご覧ください。
「すぐに実践したくなる、結果が出る経営の仕組みづくり その②」
③モチベーションマネジメント
支援体制や雰囲気、教育についてなどの職場機能についてのマネジメントです。職員のモチベーションの向上や維持に直結する重要なマネジメント機能です。
モチベーションマネジメントについての詳しい情報はこちらもご覧ください。
「すぐに実践したくなる、結果が出る経営の仕組みづくり その③」
方針マネジメントを構成する5機能
方針マネジメントは以下の5つの機能で構成されます。
- 価値観の共有
- 意思決定
- 凝集性
- 顧客志向
- 役割認識
これらの機能はさらに下位機能によって支えられています。それぞれの機能について詳しく見ていきましょう。
機能①「価値観の共有」について
組織の価値観の根幹となるのは経営理念です。経営理念は組織の存在意義と言っても良いかもしれません。経営理念が組織にしっかりと根付いているかの指標となるのが「価値観の共有」です。
一言で共有と言ってもそれは複数のプロセスで構成されます。認識し、理解し、自身の価値観として定着して初めて共有していると言えます。「価値観の共有」も全く同じプロセスが必要です。
経営理念の認識
「価値観の共有」の最初のプロセスは「経営理念の認識」です。具体的には以下の通りです。まずは、経営理念の内容を理解していなければいけません。抽象的表現である経営理念が具体的にどのような行動や役割を求めているのかかみ砕いて消化できている状態です。その過程では、経営理念について納得している必要があります。つまりは、経営理念が求めることについて共感し、「その通りだ。」と受け入れている状態が求められます。
「経営理念が言っているとこは分かるんだけど、ちょっと自分としてはそれには納得できないんだよね。」という状態では経営理念を認識しているとは言えませんし、そもそもその組織で働くこと自体が双方にとってアンハッピーな状態と言えます。
経営理念を具体的に理解して、それについて納得している。「理解」と「納得」の2つの状態がそろってはじめて経営理念を認識していると言えます。
経営理念の内在化
「価値観の共有」の2つ目のプロセスは「経営理念の内在化」です。具体的には以下の通りです。まずは経営理念が職員の価値観の1部になっていなければなりません。経営理念に納得し、経営理念を意識しながら働いていると、次第にそれが自身の価値観の1部になっていきます。価値観になるということは、判断基準として機能している状態です。
やるべきか辞めるべきか、進むべきか戻るべきか、判断に迷った時に経営理念に立ち返って、どうするべきかを考えるという状態になっていれば経営理念が内在化されていると言えます。
まとめ
この様に、「経営理念の認識」と「経営理念の内在化」の2つをそろえることが「価値観の共有」には必須です。これは、理念の唱和といった単純化行動の繰り返しではなし得ません。経営理念が具体的にどんな行動を求めているのかについてディスカッションしたり、経営理念を体現した行動を取り上げたり賞賛したりといった地道な活動を継続していくことが求められます。
機能②「意思決定」について
決めるべき人がしっかりと物事を決めているかどうかも方針マネジメントでは重要です。その指標となるのが「意思決定」の機能です。
「意思決定」もいくつかのプロセスに分けられます。責任権限を明確にして、各自がそれをしっかりと行使して、さらに決定事項が共有されて初めて「意思決定」がはかられていると言えます。
責任権限の明確化
誰が何をしなければいけないのかを決めることを「責任権限を明確にする。」と言います。ただし、それが社長や理事長、部長の頭の中にあるだけではいけません。必ず文書化されて共通理解されている必要があります。そうしないと「え!!私にそんな責任があったのですか?知りませんでした。」ということになります。
社長や理事長、部長、課長、主任、一般職まで、箇条書きで分かりやすく責任権限を明確化しておくことが大切です。
責任権限の行使度
各自が責任権限を確実に果たしているかを示すのが「責任権限の行使度」です。課長の責任権限が「現場の意思判断の集約と上申」であれば課内の方針を取りまとめて部長にお伺いを立てなければなりません。仮に会議を開催しても方針がまとめられずに「なあなあ」になっているのであれば課長は責任権限を行使していないことになります。主任の責任権限が「専門職のリーダーとして臨床の最前線に立ち、職員のモチベーションを鼓舞する。」であり、職員からの信頼が厚く、精神的支柱になっているのであれば主任は責任権限を行使していると言えます。
決定事項の共有
「意思決定」の機能の最後のプロセスあり、最も重要なプロセスは「決定事項の共有」です。決まったことが現場に降りてこない、知らないうちに方針が変わっていた。この様な状態では組織としての意思決定がはかられているとは言えません。決まったことについて知るべき職員が全員知っている状態が「決定事項の共有」です。
まとめ
責任権限を明確にし、各自がそれを確実に行使し、その結果としての意思決定事項がしかるべき職員としっかりと共有されている。「意思決定」機能としてはこの3つをそろえる必要があります。
機能③「凝集性」について
方針マネジメントが機能していると、組織としての凝集性が育ちます。凝集性は心理的凝集性としての一体感と、機能的凝集性としての目標の共有度に分けることが出来ます。
職場の一体感
「職場の一体感」とは構成員の心理的つながりのことです。仲間外れや孤立している人が居ない、職場で起きる喜怒哀楽といった感情をお互いのものの様に共有している状態を指します。こういった一体感があることで組織としての凝集性が高まります。
目標の共有度
組織としての目標を共有して、その方向を向いて走っているかも凝集性の指標として重要です。一体感が高くても目標がバラバラだったり、そもそも共有されていなかったりしては生産的組織とは言えません。
まとめ
仲間意識だけが強くても、目標遂行を目指して組織内がギスギスしていても組織としての凝集性は育ちません。凝集性の強い組織はこれらを同時に内包しています。
機能④「顧客志向」について
何らかのサービスや製品を提供して対価を頂く以上、顧客と呼ぶべき個人や組織が存在ます。顧客が存在するということは、組織の永続性、持続的成長のためには顧客満足度を高めることが必要です。組織として顧客満足度を重視している状態を「顧客志向」と言います。
顧客志向度
顧客満足度を大切にし、顧客からの意見を反映して組織活動を行っているかを示すのが顧客志向度です。その結果として顧客から信頼感を得られているかも顧客志向度の重要な指標です。
機能⑤「役割意識」について
組織の経営方針は、部門や部署の目標に展開され、最後は個人の目標につながります。方針マネジメントが機能している組織では、これらが矛盾なく論理的につながっています。そのため、構成員の1人ひとりが何をするべきか、期待されているかを分かっています。これが「役割意識」と呼ばれるものです。
部署役割の認識
組織から自分の所属する部署が何を期待されているのかを知っていること、そしてその役割を納得して受け入れている状態を指します。なぜその役割を求めるのかをロジカルに説明することで「部署役割の認識」は高くなります。
部署役割の内在化
部署内の活動や判断が期待されている役割を基準に行われるようになれば部署の価値観として役割が機能している状態となります。これを内在化と呼びます。
まとめ
方針マネジメントの目的は、組織のベクトルを同じ方向に向けることです。そういった意味からも役割意識が浸透している組織は方針マネジメントがしっかりと機能していると言えます。
今回のまとめ
今回は方針マネジメントが機能しているとは具体的にどのような状態の組織なのかをまとめてみました。逆に言うと、方針マネジメントを機能させるためには、今回とりあげた要素を確立していくことが必要と言えます。
方針マネジメントに関する改善パッケージは「職員が定着し収益も伸びる病院・介護施設の組織課題別の経営改善方法 その③」や「経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その①」にもまとめていますので是非ご覧ください。
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