経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その①

2022年9月20日火曜日

具体的事例 経営の仕組み

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職員が定着し収益も伸びる病院・介護施設の組織課題別の経営改善方法 その③」で、経営方針の見える化と伝達方法の確保が重要と書きました。

今回は、経営方針の見える化と伝達方法の確保についてより掘り下げて考えてみたいと思います。


そもそも、方針やビジョンの浸透というのは組織の永遠のテーマです。

私が経験したことのある組織サーベイでは、理念浸透という項目がありました。

そのサーベイの担当者は「理念浸透はどこの組織でも低くなるんですよ。」と言っていました。

それはそれでどうなんだと思いましたが、一朝一夕、簡単には方針やビジョンは浸透しないというのはどこの組織でも同じことです。


これをやれば完璧というものはありませんが、これまでに私が取り組んできた具体的方法についてお伝えしたいと思います。


経営方針やビジョンを階層化する

経営方針やビジョンとして最初に思いつくのは理念だと思います。理念は変えないものと思われがちですが、理念変更として戦略的に利用するというの一つの手です。なぜならば、理念の変更というのは非常にインパクトがあることですし、組織が変わろうとしているということを強烈に伝える機会になります。

経営改善のタイミングが、新理事長や新社長の就任と重なる、病院や施設の建て替えと重なる、新事業の開始等組織体制の大変革と重なるという場合は、理念変更を行うのも有効と考えます。

ただ、なかなかそこまでのタイミングには当たらないので中長期の経営計画を作成して、理念実現に向けて具体的に組織が何を目指しているのか見える化させるというところに着手するのが王道でしょう。


中長期経営計画とは

私は9か年の経営計画のことを中長期経営計画と呼んでいます。それは長期経営計画と中期経営計画に分けられます。長期経営計画は9年後に組織が目指したい姿を描きます。中期経営計画は、その9年を3か年毎に区切って、その期間毎に組織が目指したい姿を描きます。ですので中期経営計画は3つ作ることになります。


長期経営計画に記載すべきこと

最初にお伝えしますが、この記事では、先に長期経営計画を説明して、その後に中期経営計画を説明しています。理屈的には、長期経営計画があって、そこからバックキャスティング的に中期経営計画を作るのでこの順番にしています。ただ、あくまで理屈であって、実際の作業としては長期経営計画と中期経営計画を同時進行で作ることになります。両者を行ったり来たりの作業を繰り返します。そんなにきれいに進むものではないとご理解ください。

長期経営計画を9か年にしていることに特に意味はありません。1つ目は、なんとなく未来を想像するなら10年先位までかなという感覚的な問題が理由です。2つ目は中期経営計画との兼ね合いです。中期経営計画を3か年としているので、10に近い3の倍数として9を選んだという単純な理由です。


前置きが長くなりました。


長期経営計画では以下の内容を記載します。


長期経営戦略について

まず、組織がどういった方向を目指したいのかを記載します。改革のテーマや長期戦略のキャッチコピーみたいなものです。


  • 地域で一番の在宅生活サポート事業所になる
  • あらゆる人たちが集まってくる地域拠点になる
  • なんでもどんと来い病院になる。


ちょっとふざけても良いので職員の頭に残るようなフレーズを立てたいです。


次にステークホルダーにどんな価値を与えられる組織になりたいのかを記載します。これは先ほどの改革のテーマやキャッチコピーとして描いたことが、ステークホルダーに何を提供することになるのかを表すこととなります。

ステークホルダーとは、利害関係者のことです。その組織の活動を通して、良い影響も悪い影響も与える可能性のある人たちの総称です。

医療・介護・福祉ですと概ね以下の方たちと言えます。


  • 患者、利用者および家族
  • 職員
  • 経営陣
  • 社会(地域)


これらの方たちにどういった具体的価値を提供したいのかを記載します。各ステークホルダーにどんな貢献をしていきたいのかと書く方が価値基準が伝わりやすいと考えています。理念やキャッチコピーだと抽象的ですし、戦略や目標だと管理的な印象が強くなります。

その点、ステークホルダーへの価値提供とするとそれぞれの利害関係者に何をしてあげたいのかが明確になります。そして価値基準として職員が主体的に判断する際に機能することが期待できます。


次に、9年間を3つの期間に分けます。すなわち1年目~3年目、4年目~6年目、7年目~9年目です。中期経営計画の期間と同じです。

この期間それぞれに何を目指すかの決意表明を記載します。長期経営戦略を実現させるために、ホップ・ステップ・ジャンプのイメージで、3年目までにどうなっていたいか、6年目までにどうなっていたいか、9年目までにどうなっていたかを記載していきます。

3年目までは具体的に書けるかもしれません。9年目となるとほとんどイメージに近いものになるかもしれません。それでも構いません。

先述しました通り、この部分の作業は中期経営計画を立てる作業と同時並行で行うことになりますので、長期経営戦略と中期経営戦略を行ったり来たりすることになるはずです。


中期経営戦略に記載するべきこと

次に中期経営戦略についてです。中期経営戦略とは3か年の経営戦略を指します。もし、初めて中長期経営戦略を作成する場合は、まず9か年経営計画としての長期経営戦略を立てた後に、直近3年間の3か年経営計画として中期経営計画を立てます。つまり長期経営計画と、直近3か年分の中期経営経計画の2つの経営計画を立てることになります。その後は、3年に1回のペースで中期経営計画を立てていくということになります。


なりたい姿について

中期経営計画では、最初の作業として“なりたい姿”を明確にします。“なりたい姿”とは、この3か年に何を目指すのかの意思表明でのことです。


  • 予防医療に進出して地域の健康寿命延伸に貢献する
  • 新規事業を3つ以上立ち上げ、事業の多角化を行う
  • 顧客満足度、職員満足度を地域で一番にする


といった感じです。


その上で、長期経営戦略からみて、この3年間をどんな位置づけとして考えているのかを記載します。例えば、事業拡大のために現状の課題解決に取り組まなければいけない3年間と考えているならば、「経営基盤の整備と仕組みづくりの3年間」となるかもしれません。あるいは、成長の方向性を明確にし、経営資源を配分し直す3年間と考えているならば、「選択と集中の3年間」となるかもしれません。

いずれにしても、長期的な目標である長期戦略と、もっと身近でイメージしやすい中期戦略との整合性をきっちりと説明できるようにすることが大切です。


主要戦略について

次に中期経営計画における主要戦略を記載します。例えば、「新たに、〇〇診療科を開設し、外来診療を始める。」であったり、「介護事業部門において、認知症サービスの充実を図る」であったり、「障害福祉サービスに進出し、児童領域のサービスを開始する」などがあげられます。

この時に私が大切にしているのは、複数事業を展開している場合は、すべての事業に対して主要戦略を立てるようにすることです。収益性や売上規模によって、どうしても経営資源の分配には偏りが出ますし、そうあるべきです。しかし、「〇〇部門は利益も売り上げも少ないので現状維持にしよう。」としてしまうと、その部門の職員のモチベーションに悪影響を与えます。期待されていない、あるいは、適当でも良いやというメッセージとして受け取られかねません。パフォーマンス的な意味合いも含めて、全職員にとって主要戦略が関わるように描くことが大切です。


主要戦略を書いたら、再びステークホルダーの登場です。その主要戦略が各ステークホルダーに提供する価値について記載します。理由は先述の通りです。ただ「新しいことをやります」というのではなく、その戦略が、組織に関わる人たちにどのような価値を提供するのか、実行する意味合いにについて明確に伝えるためです。


「新たに、〇〇診療科を開設し、外来診療を始める。」という主要戦略を例に挙げます。


  • 患者、利用者および家族

 診療圏において、〇〇診療科は少ない。また、疾患についての啓もうも行われておらず、早期受診に繋がっていない方も多いと見込まれる。そのような方々に早期受診の必要性の理解とその環境を提供することで健康寿命の延伸や地域生活の継続に貢献する。


  • 職員

 〇〇診療科の開設を機会に、複数のキャリアデザインを整備する。内外の教育カリキュラムを構築し、医療専門職としての成長をバックアップする。給与制度ともリンクさせることで、努力した職員がハッピーになれる法人を目指す。


  • 経営陣

 人口減少に伴い既存診療科の市場が縮小している。新たに〇〇診療科に進出することで外来患者数の維持増加を図るとともに病棟と連携し、ベッド稼働率の維持向上にもつなげる。


  • 社会(地域)

 〇〇診療科を新設することで地域の医療資源の充実に貢献できる。自治体との連携も視野に入れながら疾患教育活動を行うことで地域のヘルスリテラシー向上につなげる。


このような記載内容になると思います。


具体的な戦術について

主要戦略を実現させるためには、さまざまな取り組みが必要です。また具体的なステップやプロセスを設計する必要もあります。


例えば、「介護事業部門において、認知症サービスの充実を図る」という主要戦略について考えると、まずどのような認知症サービスを行うのか決めて、サービスの具体的内容を作っていかなければなりません。次に、認知症サービスを担える人材が必要です。教育で内部人材の力量を上げる、外部から認知症サービスの力量がある人材を新規に採用してくるというった方向性が考えられます。場合によっては新規サービス提供の司令塔となる部署を新設したり、プロジェクトとして進捗管理する仕組みが必要だったりするかもしれません。そもそも主要戦略をスムーズに実行するために改善したり伸ばしたりしなければいけない組織風土があるかもしれません。例えば離職率の改善であったり、エンゲージメントの向上であったりです。


このように、私は具体的な戦術をまとめる際は以下の4つのシステムに分けることが多いです。


  • サービスシステム
  • 人材システム
  • 経営システム
  • 組織風土システム


これらに分けながら、主要戦略を実現させるためのステップやプロセスを具体的に描いていきます。


まとめ

ここまで記載すると結構なボリュームになります。理念の抽象的な表現に留めずに、実際に方針やビジョンをきちんと説明しようとすると本来はこれくらい必要です。


さて、伝えるべき内容はできました。しかし、大切なのはここからです。

しっかりと作り込んでも熱心に聞いてくれる職員は一握りです。そして、その職員たちですら理解できるのは一部分です。

作ることよりも、戦略的に伝え方を考えること、そしてそれを継続させることの方がはるかに大切であり、難しくもあります。


作成した経営方針やビジョンをどのように伝え、浸透させるかについてはこちらをご覧ください。

経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その②


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病院・介護施設・福祉サービス事業所など組織力を高め、「人が集まる組織」、「人が辞めない組織」を作る専門家。 「定着率を2倍にする3つの視点」をベースに、採用・定着に関する仕組みづくりを総合的な組織改善を通してプロデュースしている。  高額でありながら離職しやすいとされる人材紹介サービス会社との付き合い方や対策アドバイスを専門的に行えるのは業界唯一である。

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