職員が定着し収益も伸びる病院・介護施設の組織課題別の経営改善方法 その③」にて、経営方針のレビューの必要性についてお伝えしました。
レビューの必要性について
1番良くないのは、前に作った経営方針を無かったことの様にして、新しい方針を作ってしまうことです。これを繰り返すと、職員は「どうせ今回も形だけだろう。」と感じてしまいます。
方針や計画を作ったら、必ずレビューの機会を作りましょう。
今回は、具体的にどんな視点からレビューを行うべきかについてお伝えします。
経営方針や目標のレビューとは?
そもそもレビューとは何を指すのでしょうか。
レビュー(英:review)とは、語源的には、“re-:再び”と“view:よく見る”の組み合わせです。見直しをするという意味を含んだ言葉です。これから、「確認する」、「見直す」「批評する」、「チェックする」などの意味で使われます。現在では、ビジネス用語、IT用語、ユーザー評価など幅広く使われる言葉です。
「経営方針や目標のレビュー」という場合は、経営方針や目標の達成度合いを確認し(太字)、その内容を見直す(太字)という意味合いで使っています。
レビューの構成要素について
以前の記事で、経営方針は階層化されると述べました。
(詳しくはこちら;経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その① )
長期経営計画でも中期経営計画でもレビュー期間の長短があるだけで、基本的内容は大きく変わりません。そのため、今回は一番レビューの頻度が高くなる単年度経営計画のレビューを想定した内容になっています。
レビューは、「2022年度経営計画レビュー」というようにアウトプットとして文書にまとめています。その方が記録として残りますし、関係者間でも共有しやすくなります。
経営計画についてのレビューを構成する要素は以下の通りです。
- レビューサマリ
- 経営数値についてのレビュー
- 主な活動についてのレビュー
- 中期経営計画の経過報告
- CSおよびESについてのレビュー
- 課題と機会のまとめ
以下それぞれについて具体的に説明を行います。
レビューサマリについては、他の構成要素の説明が終わってからの方が分かりやすいので最後に説明します。
経営数値のレビューに記載すべき内容
経営数値とは財務数値と稼働数値のことです。
財務数値とは、売上、経費、利益で構成されます。
一方で、稼働数値とは、患者数、利用者数、サービス稼働率、報酬の算定数などで構成されます。
これらを、レビューする年度実績について検討します。検討のメインになるのは財務数値目標です。以下にその手順を示します。
検討の仕方は対比です。対比する対象は2つです。1つ目は年度予算です。これはそもそもその年度に目標としていた財務数値がどれ位達成できたのかを確認するために行います。2つ目は前年度の実績値です。これは事業の経年的な比較のために確認します。事業内容に大きな変化がないにも関わらず、前年度実績との比較でギャップがある場合、イレギュラーな環境変化があったことになります。経年比較はそういった変化を発見・分析するために行います。
これらの数値を並べた上で、総括として分析していきます。総括の順番は売上⇒経費⇒利益です。それぞれについて年度予算および前年実績と比較し、達成率とその過不足の要因について端的に分析していきます。
この時に分析の補足情報になるのが稼働数値です。例年よりもどの部分の稼働が落ちて、あるいは上がって売上が上下したのが発見しやすくなります。
そのため、財務数値の分析の時には、稼働数値も一覧表にしておきます。
主な活動のレビューに記載すべき内容
レビュー年度に行った主な活動について数行端的に記載していきます。財務数値のレビューは定量的な活動評価ですが、こちらは定性的な活動評価が主な内容です。ここでいう活動とは、具体的活動内容、新規に始めた事業、仕組みづくり、制度づくり、などのことを指します。例えば以下の様な内容です。
- 職員満足度調査を開始した。今後も年に1回の頻度で実施する。目的は職員満足度調査を利用した職場環境の改善と、結果および対策を職員にフィードバックすることによる満足度の向上とした。そのためのPDCAサイクルと部門長による改善活動管理の仕組みを構築した。
- 助成金を活用し、〇〇事業部にオンライン会議システムを導入した。〇〇事業部はサテライト事業所が多いため、会議や研修の度に移動コストが発生していた。オンライン会議システムの導入でこれらの移動コストをカットすることが出来た。
主な活動のレビューの際には、まず組織全体に関わる活動を記載します。複数の事業を行っている場合は、その後にそれぞれの事業体ごとの活動について記載します。
中期経営計画の経過報告
以前の記事でも述べましたは、中期経営計画を作成する際に、具体的な戦術を記載しています(リンク:経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その①)。これは3年程度かけて達成していくものです。
単年度レビューの際には、その年度にどこまでできたのかという点からこれらの経過を総括していきます。総括の際は、サービスシステム、人材システム、経営システム、組織風土システムのそれぞれについて分けて記載します。
このレビューには次の内容を記載します。まず、それぞれの戦術が計画通りに進んでいるかどうかを振り返ります。進んでいない場合はそのボトルネックは何なのかを記載します。方針転換や戦術の追加があった場合はその内容とその理由を記載します。
CSおよびESについて
患者や利用者および職員の満足度に関する結果をここに記載します。これらは経営数値のもととなる最重要指標および組織の健全度を示す重要な指標です。もしCS(顧客満足度)およびES(従業員満足度)に関する調査をしていない場合は、レビューの仕組み導入を機会に是非開始して欲しいと思います。
CSおよびESに記載すべき内容は、それらを外部組織に委託しているのが、自分たちで実施しているのか、どのような内容の調査を行っているかによって千差万別ですが、基本的には以下の内容になるべきです。
CSに関して
- 新患もしくは新規利用者アンケート
- 定期的に行う顧客満足度調査
- 退院時アンケート
ESに関して
- 離職率(定着率)
- ストレスチェック
- 職員満足度調査
これらのデータは単年度だけ見てもあまり意味はありません。そもそもその結果が良いのか悪いのか、どうしてそうなったのかが見えないからです。最低でも2年間、できれば3年程度のデータを並べて比較しレビューします。
例えば、離職率についてレビューするとします。2022年度の離職率は16.5%でしたとだけ出てもそこから先の分析は困難です。これが、2020年度は11.2%、2021年度は10.9%と比較できれば、2022年度が突出して高いことが分かります。これはどうしてかと離職者の内訳をみていくと、△△事業部の看護師が多いということが分かりました。この部署は事業を拡大させたため、看護師を急募していました。その看護師達が早期離職してしまっていました。したがって、採用面接時の合否判定基準の改善や、看護師母集団掲載の強化などの対策が必要といえます。こんなストーリーで分析することが出来るようになります。
課題と機会の分析について
最後に課題と機会の分析を行います。課題とは、今後事業を進めていくうえで、ボトルネックや弱みになり得ること、あるいは、脅威になる存在のことです。一方で機会とは事業にとって追い風となるチャンス(chance)のことです。この課題と機会について内部環境(組織内のこと)、外部環境(組織外のこと)の2つの視点で分析していきます。この課題と機会の分析がレビューのハイライトとも言えます。
内部環境として検討すべきこと
課題の分析においても機会の分析においても内部環境として検討する内容は以下の通りです。
- 建物
- 機材、機器、システム
- 立地条件
- 知識、経験、ノウハウ
- 人材、組織
- ステークホルダーとの関係性、信頼感、ブランドイメージ
- 組織風土
外部環境として検討すべきこと
同じく外部環境として検討する内容は以下の通りです。
- 人口構成
- 経済状況(コロナ禍なども含む)
- 消費者意識
- 制度、法律の変化
- 診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス費といった報酬体系の変化
- 競合組織の状況
以上の観点をもとに機会と課題の分析を進めます。
レビューサマリについて
最後にレビューサマリについてです。レビューサマリとは、ここまで行ってきたレビュー作業について、端的にまとめたものです。私は原則としてA4用紙1枚にまとめる様にしています。ですのでワンページサマリと呼んでいます。
サマリを作る目的はいろいろとありますが、最大の目的は相手に伝わりやすくするためです。ここまでの作業をしてくるとレビューにはかなりの情報が掲載されています。読むのに時間がかかりますし、総じてどうだったのかの結論が見えにくいとも言えます。レビューの冒頭にサマリをもってくることでこの課題を解決させます。
構成としては、サマリの最初でレビューの結果、総じて良かったのか、悪かったのかの総括を書きます。その上で、主要なレビュー情報について掲載します。こうすることで読み手は最初に事業成績が良かったのか悪かったのかを理解した上で、その根拠情報に入っていくことが出来ます。場合によっては気になったレビュー内容については詳細に見ることもできます。
このように読み手に分かりやすいようにレビュー情報を構成するのも重要です。
レビューサマリには以下の情報を記載します。
- 総括
300文字程度でレビューを総括する。
- 業績
財務数値として売上および経常利益を、稼働数値として最も重要なもの(患者数や利用者数等)をそれぞれ掲載する。対予算比や前年比なども掲載する。
- その他
「主な活動についてのレビュー」、「中期経営計画の経過報告」、「CSおよびESについてのレビュー」、「課題と機会のまとめ」から重要な事項について端的に記載する。4つの領域全てを記載する必要はない。サマリが1枚に収まることを優先し、どこをどれくらい掲載するのかを検討する。
おわりに
今回は経営方針や目標のレビュー内容についてまとめました。
レビューして文書化すると経営方針や目標の進捗にリズムが生まれ、しまりも生まれます。
方針や目標を言いっ放しになることもありませんし、「結局どうなったの?」という疑問の声にも明確に答えることができます。
ぜひレビューの仕組みを導入してみてください。
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