いつもは制度や仕組みといった客観的なお話ですが、今日は集団心理というおもいっきり主観の世界からのお話です。
集団力動という考え方
私はもともとは精神科病院で心理職をしていました。
なかでも集団精神療法と呼ばれる、10名程度の患者さんのグループを対象とした心理療法に関わることが多くありました。
集団の中でも特に興味があったのが集団力動と呼ばれるものです。
集団力動とは、集団の中に流れる無意識的な力のことです。
集団には不思議な力があります。
1人では経験し得ないことがありますし、集団経験だから得られる達成感や成長があります。
ただ、良いことだけではありません。
不安感や危機感が強い集団では集団力動が悪い方向に働くことがあります。
集団力動がネガティブに働くと、誰かを攻撃したり、引きこもったり、特定の人や考えにべったりしたりということが起きます。
集団精神療法では、このネガティブな集団状態を認識したり内省したりすることを通して、ポジティブな集団状態や生産的な集団へと成長することを体験してもらいます。
私は心理職として臨床経験を積んだのちに経営に携わるようになりました。
そこで感じたのは、上記の集団精神療法のプロセスはそのまま組織改善のプロセスにあてはまるということです。
ネガティブな集団状態の分類
集団精神療法では、ネガティブな集団の状態は3つに分けられています。
- 依存文化
- つがい文化
以上の3つです。この集団状態はそのまま組織の課題としてみることが出来ます。
集団は怖いの闘争-逃避文化
どこか居心地の悪い、ピリピリしたような空気が漂うのが闘争-逃避文化の強い組織です。
例えば、
「新しい取り組みや事業を始めようとプロジェクトを立ち上げても、誰も職員が協力してくれない。忙しいからそんなのは無理とか、上は現場を分かっていないとかネガティブな声ばかり聞こえてくる。面と向かって言われなくても何となくそんな非協力的な雰囲気を感じる。」
逆に、
「何を言ってもなしのつぶて。賛成なのか反対なのかも分からない。出来るだけ声をかけられないように、目立たないようにしているようだ。」
これはどちらも闘争-逃避文化の強い組織の例です。
表面に出ている状態を見ると真逆の様に見えますが、根っこにあるのは「集団や組織は危険だ。」という恐れの感情と言われています。
攻撃は最大の防御とばかりにぶつかってくるか、引きこもって守りを固めるかの違いであり、もともとには安心感の欠如があると言えます。
原因はいろいろな場合があると思います。
高圧的な上司がいたり、トップダウンの風土が強かったり、異を唱えることが許されないような組織風土が根付いていたのかもしれません。
逆に、問題になり得るような職員が居たために、組織自体が防衛的になって押さえつける風土が染みついてしまったのかもしれません。
恐れの感情をケアする
闘争-逃避文化が強いと感じたら、恐れの感情をケアすることが大切です。
言うことを聞かないからといって押さえつけてしまっては逆効果です。恐れの感情をさらに強くしてしまいます。
恐れの感情をケアするには、やって良いこと、やってはダメなことを明確に設定するところから始めます。恐れの感情の根本は、予測が立たないことからくる攻撃を受けるのではないかという漠然とした不安感です。
組織としてやって良いこと、やるべきことを明確にするには、サービスのマネジメントシステムを確立させ、責任権限や計画作成のルール、業務改善の仕組みを見える化させる必要があります。
つまりPDCAサイクルの運用を確実にさせることです。
具体的な進め方については「医療介護福祉組織の風土を確実に改善させる4つのプロセス その①」にまとめてありますので、そちらをご覧ください。
誰か助けてくれるだろうの依存文化
上司や経営層からの指示待ち、何でもお伺いを立てる主体性の無い組織を支配しているのが依存文化です。
例えば、
「細かいことまで、どうしたら良いですか?といちいち訊いてくる。指示を伝えるとその通りやるだけで自分たちでは全く考えない。創意工夫が無い。」
とか、
「1を伝えれば1、5を伝えれば5しかやらない。すべてを細かく指示しないといけない。だから臨機黄変に対応できない。」
これは依存文化の強い組織の例です。
上司や経営層、職場のリーダー格に判断を委ね、彼らの指示に従っていれば間違いないと思い込んでいます。根っこにあるのは「自分たちは何もできない」という無力感の気持ちがあるとされています。
これにも原因はいろいろあります。
必ず上司の指示を仰がなければならない、勝手に判断してはいけない、さもないと大きな失敗につながると繰り返し指導されてきたのかもしれません。
あるいは過度に失敗を恐れる組織風土が定着し、改善活動や新しい取り組みを行うよりも、失敗をしないことや変わったことをしないように監視する機能が上司に求められているのかもしれません。
成功体験をつませてあげる
依存文化が強いと感じたら、無力感をケアし、自分達も出来るという成功体験をつませてあげることが大切です。
主体性を持たせようといきなり突き放してしまっては逆効果です。見捨てられないようにしがみつく行動を助長させてしまいます。
魚釣りの例え話があります。
魚が欲しい人に、魚をあげてしまうと、あげた魚がなくなるとまた欲しいと言ってくる。
魚の釣り方を教えると、魚がなくなったら自分で釣って魚を手に入れられるようになる。
教育とは後者のプロセスであるという例え話です。
成功体験をつませてあげるとはまさにこの例の通りです。
私の関わっていた法人では長らく業務改善コンクールを行っていました。
若手の職員に対し、効果的な業務改善の仕方を教え、実際に自分の部署の業務改善を行い、それを発表し、表彰するという取り組みです。
- 改善ターゲットの見定め方
- 改善目標の立て方
- 要因解析の方法
- 改善策の立て方と優先順位の決め方
- 改善策の効果確認方法
- 改善策が形骸化しないための歯止めの方法
こういった改善のための手順を丁寧に教えています。
業務改善の仕方を教え、自分たちで業務改善を行えるようにする。
まさに先ほどの魚釣りの例を実践していました。
業務改善に限定する必要はありません。
組織の中の何らかの取り組みについて手順を明確にして教えてあげて、「やってごらん。」と後押ししてあげることです。
そして、結果に対してポジティブなフィードバックをしてあげます。できた事を評価し、課題がある場合はさらに良くなるための可能性として示してあげます。
これを繰り返すことで少しずつ集団に自信が芽生え、依存文化が改善していきます。
これだけやっていれば大丈夫のつがい文化
昔のやり方や取り組み、1つの考え方を見直すこともなく延々と繰り返している保守的な組織を支配しているのはつがい文化です。
例えば、
「伝統や設立時の理念を大切にする気持ちは立派だけど、やっていることが20年前と変わらない。事業環境は変わってきているのに本当に大丈夫なんだろうか。徐々に患者数も減ってきているのに・・・。」
とか、
「これが現場のやり方で、今までずっとこれでやってきました。経験に裏打ちされた一番良い方法なんです。と言っているのに、事故が多かったり、職員がどんどん辞めたりしている。」
これはつがい文化の強い組織の例です。
“つがい”とは、二つそろって一組になることや夫婦という意味です。つがい文化とは、その意味の通り、1つの考え方や方針が組織と夫婦の様に強力に結びついている状態を言います。
根っこには、本当は見なければいけない事実や受け入れなければいけない現実がありながらも、それから必死に目をそらしているという心理があるとされています。心理学的にはこれを否認の心性と言います。
これにもいろいろな原因があります。
ただ、組織内に取り組まなければならない大きな課題が眠っているということは共通しています。
それは、事業環境の変化に伴い、代替わりや事業の再構築、組織制度の抜本的な見直しなどが必要な事業転換期を迎えているということかもしれません。
いずれにしろ、向き合うにはしんどく、痛みを伴う課題が眠っている可能性が高い状態と言えます。
本当の課題を受け入れ、先を描く
つがい文化が強いと感じたら、まずは目を背けている課題が何なのかを見極め、それが課題だと共通認識することが大切です。
ただし、課題を突き付けるだけでは不安感を助長させてしまうかもしれません。同時に、どのようにそれを受け入れ、進んでいくのかの道も示すことも重要です。
これは事業方針を示すことに他ありません。
事業方針を作成する際、まずは現状分析として内部環境と外部環境の課題と機会の分析をします。
課題は組織が向き合い、しんどい思いや痛みを伴う経験をしなければならないものです。
ただ機会もあります。機会とは、組織の中にある希望やチャンスです。
組織の中には課題だけではなく希望もあると思えることがつがい文化の改善につながっていきます。
ここで終わってはいけません。
課題と機会を踏まえて具体的に組織が何を目指しいているのか、機会を活かし課題をどのように克服していこうとしているのかのロジカルな道筋を示すことが大切です。
この方法については「経営方針の見える化と伝達の具体的方法について その①」にまとめてありますのでそちらをご覧ください。
集団力動に目を向けることの重要性について
今回は、集団力動から組織を分析してみました。
そうであっても実は対策は王道で、方針管理や品質管理、モチベーション管理に帰結します。
私はそれでも組織改革を行う際に、集団力動の視点はとれも有効だと感じています。それは、改善が進まない抵抗要因について深く理解でき、想像を膨らませることが出来るからです。
組織改革の難しいところは、継続しない、浸透しない点にあります。
方針ややることは明確にできても、組織の文化として根付いていかない、あるいは現場の強い抵抗にあうということがよくあります。
心が折れそうになることもありますが、集団心理の面から職員を理解することで、彼らの抵抗の核心に共感でき、こちらも粘り強く、効果的な対策を検討することが出来ます。
逆に言うとそこの苦労無くして組織風土の改善は無しえないとも言えるでしょう。
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